浦和地方裁判所 平成元年(ワ)647号 判決 1992年4月02日
原告
高橋紗代
被告
国谷英夫
主文
一 被告は原告に対し、三三一四万五三一三円及び内二九一四万五三一三円に対する昭和六一年一月二七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
1 被告は八二七三万九七三九円及び内五五三七万五四五九円に対する昭和六一年一月二七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第二主張
一 請求原因
1 原告と被告との間で、左記交通事故(以下、「本件事故」という。)が発生した。
(1) 日時 昭和六一年一月二六日午後七時四五分ころ
(2) 場所 鳩ヶ谷市里一七一三番地先交差点(以下、「本件交差点」という。)
(3) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車
(4) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車
(5) 態様 原告が普通乗用自動車を運転して、信号機により交通整理の行われている本件交差点を信号に従つて東京都方面から浦和市方面に向けて直進中、対向してきた被告運転の普通乗用自動車が蕨市方面に右折しようとして、右交差点内で原告車に衝突した。
2 原告は、右事故により、内臓破裂、膵腸間膜後腹膜出血等の重傷を受けた。
3 損害
(一) 原告は、前記受傷により、埼玉厚生病院に昭和六一年一月二六日から同年二月一九日までの二五日間入院し、大宮赤十字病院に同月二〇日から同年八月二日までの一六四日間、昭和六二年一月三〇日から同年二月六日までの八日間及び同年三月二三日から同年四月七日までの一六日間各入院したほか、昭和六一年八月四日から昭和六三年一二月六日までに計二二一日間通院した。
(1) 傷害慰謝料 三四三万二〇〇〇円(右入通院期間を基礎とした額二六四万円に、生死が危ぶまれる状態が約二週間続いたことを考慮して、三割増額した金額)
(2)入院付添費 四七二万〇五〇〇円(事故当日から症状固定日である昭和六三年一二月六日までの一〇四九日の入院及び自宅療養の付添費として一日四五〇〇円として算定)
(3) 入院雑費 二五万五六〇〇円(一日一二〇〇円として、二一三日間分)
(二) 原告は、前記受傷のため、下痢、疼痛、むち打ち損傷等に悩まされており、これは、自賠法施行令第二条別表の後遺障害別等級表第五級に相当する。
(1) 後遺症慰謝料 一一〇〇万円
(2) 休業損害 八一〇万円
原告は、喫茶店を営業し、昭和六〇年度の所得金額は二七一万一九八一円であつたが、本件事故後である昭和六一年度ないし昭和六三年度までの所得金額は合計三万七七六三円に過ぎず、年間約二七〇万円の減収となつたので、その三年分)
(3) 逸失利益 二九一七万一八〇二円
原告は、本件事故当時満四四歳の女子であり、前記受傷により労働能力を七九パーセント喪失したから、右事故に遇わなければ満六七歳までの二三年間に一年当たり昭和六〇年度の所得金額である年額二七一万一九八一円を取得できたものとして、その間の逸失利益を計算すると、二七一万一九八一円×〇・七九×一三・六一六(新ホフマン係数)=二九一七万一八〇二円となる。
(三) 車両損害 八五万円
原告運転の普通乗用自動車が本件事故により大破したので、その代金相当額。
(四) 将来の看護費用 二二三六万四二八〇円
原告は昭和六三年一二月六日の症状固定時において満四八才であるから、その余命を二〇年間、その間の付添費を一日当たり五〇〇〇円として計算すると、五〇〇〇(円)×三六五(日)×一三・六一六(新ホフマン係数)=二二三六万四二八〇円となる。
(五) 弁護士費用 五〇〇万円
4 よつて、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として、右3(一)ないし(五)の各損害合計八四八九万四一八二円から支払いずみの二一五万四四四三円を差し引いた残額八二七三万九七三九円及び内五五三七万五四五九円に対する本件事故の翌日である昭和六一年一月二七日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による損害金を支払うよう求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2、3は知らない。
4 同4は争う。
三 被告の主張
1 過失相殺
本件事故は、被告が国道一二二号線を浦和市方面から東京都方面に向かつて進行し、対面信号が青色から黄色に変わつたので、同交差点で蕨市方面に右折した際、対向車線を時速約五〇キロメートルで直進してきた原告車と出会い頭に衝突したものである。本件交差点は片側二車線で、見通しも良く、被告車が右折を開始しており、しかも、原告車の対面信号は青色から黄色に変わつていたのであるから、原告としても交差点を通過するにあたつては速度を十分に落とし、前方車両の動静に注意して進行すべき注意義務があつたといえるから、原告の損害につき相当な過失相殺がなされるべきである。
2 弁済
被告は、原告に対する損害の填補として、左記のとおり合計一三五〇万五〇三三円を弁済した。
(1) 治療費 五〇一万六六一九円(<1>埼玉厚生病院二八〇万八九四九円<2>大宮赤十字病院二二〇万七六七〇円)
(2) 国民健康保健求償分 二一九万九八八八円
(3) 付添い費(家政婦会) 一三万二一六五円
(4) 装具費(高橋商会) 七万七五〇〇円
(5) 原告本人への支払い 六〇七万八八六一円(銀行振込分五八七万八八六一円、交付分二〇万円)
四 被告らの主張に対する認否
1 被告の主張1は争う。本件事故は、原告が国道一二二号線を走行して本件交差点に進入する直前に対面信号が青色から黄色に変わつたが、時速約五〇キロメートルで進行していた関係上、そのまま交差点を通過しようとしたところ発生したものである。被告車両は交差点内で一時停止して原告車両の通過を待つべきであつたのに、漫然と右折のため本件交差点に進入してきたために事故に至つたといえる。したがつて、右交差点を通過しようとした原告には何ら過失はない。
2 同2のうち、原告が損害の一部につき填補を受けたことは認めるが、その金額については争う。
原告が昭和六三年一二月二八日までの間に被告から本件事故に関して受領した金員は合計五八一万三三三一円に過ぎない。
第三証拠関係
本件記録中の書証目録、証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(本件事故の発生)は争いがなく、成立に争いのない甲第一号証によると、原告は本件事故により、内臓破裂、膵腸間膜・後腹膜出血兼汎発性腹膜炎等の傷害を負つたことが認められる。
二 損害
1 入通院関係
右甲第一号証、成立に争いのない甲第二ないし第五、第一一ないし第二八号証によると、原告は前記受傷のため、埼玉厚生病院に昭和六一年一月二六日から同年二月一九日までの二六日間入院し、大宮赤十字病院に昭和六一年二月二〇日から同年八月二日まで一六四日間、昭和六二年一月三〇日から同年二月六日までの八日間、同年三月二三日から同年四月七日までの一六日間それぞれ入院した。
また、原告は、大宮赤十字病院に、昭和六一年八月四日から昭和六三年一二月六日まで外傷性膵損傷術後膵瘻の治療のため通院し、昭和六一年八月二六日から昭和六三年一二月九日まで耳鳴り症、眩暈症の治療のため通院し、昭和六二年一月一六日から同年四月三日までの間機能性子宮出血(本件事故によるシヨツクが原因とも考えられている。)のため通院し、昭和六二年四月二二日から昭和六三年一一月二二日までむちうち損傷、椎間板ヘルニア、背痛、両下肢痛の治療のため通院し、昭和六三年五月二四日から同年一二月六日まで自律神経失調症の治療のため通院したこと、右各通院の実日数をすべて合計すると二二一日となることが認められる。
<1> 入院付添費
原告の前記受傷の程度からすると、右入院期間である二一三日間について近親者の付添いを要したことが認められる。
右入院中の付添い費用としては一日当たり四〇〇〇円として合計八五万二〇〇〇円とするのが相当である。
<2> 入院雑費
右入院中の二一三日分の雑費としては、一日一二〇〇円として二五万五六〇〇円が相当である。
<3> 傷害慰謝料
原告の前記受傷による慰謝料としては三〇〇万円が相当である。
2 後遺症について
(一) 前記各甲号証、原告本人尋問の結果及びこれにより成立の認められる甲第二九ないし第三二号証によると、原告は、本件事故により、内臓破裂、膵腸間膜・後腹膜出血兼汎発性腹膜炎の各傷害を負い、右傷害により、外傷性膵損傷術後膵瘻、むちうち損傷、椎間板ヘルニア、背痛、両下肢痛の後遺症を有しており、膵瘻孔の症状は再燃、緩解を繰り返していること、原告は慢性の下痢に悩まされており、頭・頚・背・腰・両足関節部に痛み、両手にしびれがあり、眩暈を感ずるほか、右膝にも力が入らない等の自覚症状を訴えているほか、腹筋力の低下により排便や体動が困難であること、原告は日常生活の中で、起立や室内での移動には壁の支えを必要とし、食事では箸を十分に使えず、衣類の着脱には介助を要し、屋外歩行には常時杖による補助を要すること、大宮赤十字病院の担当医師は原告の後遺症について身体障害者福祉法別表第五級相当の障害に該当するとの意見を提出していることが認められる(なお、原告は自賠責保険の手続きにおいて、前記後遺障害等級別等級表一一級一一号該当の認定を受けているが、これは、原告の症状の大半が身体の各所の痛みや痺れ、眩暈など主として自覚症状といわれるものであつて、検査結果や他覚所見からは十分には把握しえないことによるものとみられる。しかしながら、自覚症状とはいえ、原告に右のような後遺症が存し、そのために労働のみならず日常生活での行動が著しく制限されている状況にあることは明らかであるから、右自賠責保険における認定はただちに本件訴訟における労働能力喪失の認定を左右するものではない。)。
右認定事実によると、原告の本件事故による後遺障害は、前記等級表第七級第四号及び第五号に該当し、結局、右各障害を併合して上位の等級である前記等級表第五級に該当するものと認めるのが相当である。
(二) 休業損害
官公署作成部分の成立は争いがなく、その余の部分については原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第六、第九号証、前記甲第一二ないし第一六号証、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第七、第八号証及び弁論の全趣旨によると、原告(昭和一六年一〇月二二日生)は、本件事故当時満四四歳の女子で、浦和市内で喫茶店を経営していたこと、本件事故後は治療や後遺症のために右喫茶店の売上も減り、所得もそれにつれて減少した(売上は昭和六〇年度は一一八〇万三五〇〇円、昭和六一年度は六七〇万八〇八〇円、昭和六二年度は二六五万七〇三〇円、昭和六三年度は五三四万一五四〇円であり、所得は昭和六〇年度は二七一万一九八一円、昭和六一年度ないし昭和六三年度の三年間はいずれも〇円)こと、原告の前記後遺症は、外傷性膵損傷に起因するものについては昭和六三年一二月六日に、むちうち損傷、椎間板ヘルニア、頭・頚等の痛みについては同年一一月二二日にそれぞれ固定したことが認められる。
右事実に原告の受傷内容、治療経過を考え合わせると、原告の本件事故時から前記後遺症固定時までの休業損害は、原告主張の八一〇万円を下らないものと認められる。
(三) 逸失利益
原告の後遺障害の内容・程度・年令は前記のとおりであり、原告は右後遺障害により症状固定の後二〇年間にわたりその労働能力を七九パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、原告の本件事故当時の営業による収益は年間二七一万一九八一円であつたから、原告の右期間における逸失利益は、二七一万一九八一円×〇・七九×一三・六一六=二九一七万一八〇二円となる。
(四) 後遺症慰謝料
本件事故の態様、後遺症の程度、事故後の原告の生活状況、原告の年令、職種等諸般の事情に照らすと、一〇〇〇万円が相当である。
(五) 将来の介護費用
前記甲第一九号証、第二九ないし第三二号証及び原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故の後遺症により、食事、衣類の着脱、入浴等の日常生活上の基本的な動作について家族など他人の補助(半介助)を要する状態にあること、原告の各症状のうち、神経症状はごく緩やかながらも軽快する見込みがあることが認められる。
そうすると、前記後遺症固定時以降一〇年間につき一日三〇〇〇円当たりの介護費用を要すると認めるのが相当であるから、新ホフマン方式により中間利息を控除すると、原告が現時点で請求しうる将来の介護費用は三〇〇〇円×三六五(日)×七・九四四九=八六九万九六六五円となる。
3 車両損害
原告本人の供述及びこれにより成立の認められる甲第一〇号証並びに弁論の全趣旨によると、本件事故により、原告所有の普通乗用自動車が大破し、原告は八五万円相当の損害を受けたことが認められる。
4 右1ないし3の各損害を合計すると、六〇九二万九〇六七円となる。
三 そこで、被告らの過失相殺の主張について検討する。
前記争いのない事実並びに成立に争いのない乙第一ないし第六号証及び原告本人尋問の結果によると、次のとおり認められる。
原告は、本件事故当時、普通乗用自動車を運転して、国道一二二号線を東京方面から浦和方面へと時速約五〇キロメートルで直進し、本件交差点に差し掛かつたこと、本件交差点は信号機により交通整理を行われている交差点であり、原告が本件交差点に進入する直前に対面信号が青色から黄色に変わつたが、原告はそのまま本件交差点に進入したこと、被告は右国道の中央分離帯寄りの車線を浦和市方面から直進して、本件交差点で蕨市方面へと右折しようとしていたが、本件交差点直前で対面信号が青色から黄色に変わつたこと、そこで、被告は対向車の有無を十分確認しないまま時速約二〇キロメートルに減速して急いで右交差点内で右折を開始したこと、そのため、原告は危険を感じて急ブレーキをかけたが、間に合わず本件事故が発生したこと
以上のとおり認めることができ、右認定に反する証拠はない。
右認定の事故態様からすると、原告と被告の過失割合については、原告が三、被告が七とするのが相当である。
そして、右割合に応じて、原告に生じた前記二の損害につき過失相殺すると、四二六五万〇三四六円となる。
四 弁護士費用
右三に認定した損害額、本件事案の内容等に照らすと、本件の弁護士費用としては四〇〇万円が相当である。
五 一部弁済
成立に争いのない乙第八ないし第一五号証及び弁論の全趣旨によると、本件事故による損害賠償として、合計一三五〇万五〇三三円が支払われたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
六 以上によれば、原告の本訴請求は、前記三、四の損害の合計四六六五万〇三四六円から支払いずみの一三五〇万五〇三三円を控除した残額である三三一四万五三一三円及び内弁護士費用を除いた二九一四万五三一三円に対する本件事故の翌日である昭和六一年一月二七日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による損害金の支払いを求めることができる。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林敬子)